昨日ごとを小説風に書くスレ



眠たい体を揺り起こして、今日も僕は駅で列車を待つ。
しばらくして、急行列車がホームへ滑り込んでくる。
昼間といえども、日本有数の過密路線を走る急行列車は、
端っこの車両にいくつかの空席を残すのみであった。
僕のような、何もかもが無気力な人間にとって、
東京までの40分、席に座れるかどうかは死活問題である。
すばやく空いてる席を見つけては、体を入れて着席する。
あとは寝るだけだ。
途中二子玉川の駅で目を覚ます。
多摩川を隔て、ここは首都・東京の外周部である。
列車は再び出発し、両脇の建物の間を縫うように通された高架線を抜け、
その先のトンネルを潜り抜け、地下区間へと入っていった。
そこから先は、ひたすら灰色の壁に囲まれた無機質な風景が続く。
列車まるで東京の暗闇の中に吸い込まれていくようだった。
途中駅で列車を乗り換え学校へと向かう。
ほんの数ヶ月前には、この列車に乗るときは胸を昂ぶらせたものであったが、
今では乗換え駅で乗車し、目的地で降車するということを機械的に繰り返すのみだ。


改札をくぐり抜け地上へ出る。
やっと解放された暗闇の先にあるいつもの風景。
僕はキャンパスへと足を踏み入れ、3限の授業を受ける。
前期試験が近いせいか、周りの空気もいつもより張り詰めている。
3限が終わり、僕は4限の講義がある大教室へと向かった。
コンビニで買ったおにぎりを食べ、講義を受けようとするが、
どうやらもの凄く体がだるい…。僕は30分でダウンし浅い眠りへ落ちた。
筆記具を片付ける音に急かされ目を覚ました僕は、例のごとく次の教室へ向かう。
5限は政治学の講義だ。教授は右寄りで評判の先生で、
今日も彼の口からは臆する事も無く右寄りな論説が流れ出る。
僕も昔は右寄りの勇ましい論評が大好きであったが、今となってはどうでもいいことだ。
ただ僕は僕の日常を幸せに生きたいとそれだけなんだ。
同じ教室で続いて6限の講義が始まったが、僕の体はもう悲鳴をあげている。
プリントを頂くだけ頂いて、僕は逃げるように14号館を後にした。


14号館から10、11と駅に向かって歩くが、もう歩くのも疲れたようだ。
11号館の前に並べてあるベンチに僕は腰掛けた。
そのままベンチで横になりたい気分だったが、まだ人の往来が激しい。
人目を気にした僕は、横になるのはやめて背もたれに体を預けた。
これでタバコの1本でもあれば格好良いかもしれないが、僕はタバコが吸えない。
仮に吸えたとしてもキャンパスは喫煙所以外は禁煙だ…。
目を半開きにしたまま、僕はぼーっと行きかう人々を見ていた。
どこからともなく、合唱部が発声練習をしている声がひびく…。


ゆっくりと流れる時間…。僕はいい気分だった。
隣に酒を酌み交わす友や、愛しい恋人を連れて座るのもきっと楽しいだろう。
しかし、1人の時のゆっくり流れる時間が僕は好きだ。
どうやら僕は、この都会のスピードについていけてないようだ。
将来、僕はどこか田舎で暮らすのがいいかもしれない。
そんなことを考えながら、僕はベンチを後にし家路につく。
母親から、予め今日は自分で晩飯を取るように言われていた。
キャンパスを出て、駅へ向かう途中の松屋に僕は入っていく。
さっきはあんなことを考えていたくせに、
晩飯がファーストフードとは、一体どういうつもりなんだろう。


ただ分かることは、僕は牛めしが好きだということだけだった。