青春なんちゃら2002・下編

03年の2月14日。せいんとなんちゃらの日。
僕はお台場ゼップ東京に居た。
メロン記念日の握手会に行ったのだ。
ミニライブを終えてヲタTに汗だくのTシャツで歩くヲタ達を、
カップル達が哀れな乞食を見るかのような視線を浴びせる。
流石に日時と場所が悪かっただろう。そう僕も思った。


しかし、逆にそれをあざ笑うかのような反骨心に満ちたヲタのメロンコール。
どいつもこいつも幸せそうだったし、僕も幸福感があった。


それから間もないころ。雪の降る朝。
1時間目に遅刻した僕が、1時間目の終わり際に教室に行くと、
移動教室で誰も居ないはずの教室に二人の影が。
一人は例の内部生あがりの、Yさんの彼氏であり、良き友人でもあったN君だ。
もう一人は生活主任の数学教師。
学校という小さな閉鎖された権力ピラミッドで、
まさしく猿山の大将そのものだったこの俗物の名前はもう覚えていない。
僕の記憶が確かならば小川だったような気がするがそれはどうでもいい。


ほどなくしてNは猿山の大将に胸倉を掴まれて教室から引き摺りだされ、
階下の、おそらくは職員室と思しきところに連れて行かれた。
大将は僕に気づくと、「お前も遅刻か、仕方ねぇ奴だ」と一瞥した。


僕は本当に偶然に学園モノのドラマのような場面に遭遇してしまった。
それならば同じくドラマの様に、大将に「俺のダチに何してんだ!」などと、
啖呵を切って、大将がNにそうしたように胸倉を掴んでやりたかったが、
僕の深い意識の底には、人生のレールからぎりぎりのところで脱線しないように、
何かのリミッターが付いていて、僕にそれをさせなかった。
そのリミッターは今も僕を制御している。良くも悪くも。


話がずれた。後から聞いた話と総合するとこうだ。
その日Nは僕と同様、1時間目の開始に間に合わず中途半端な時間に来たが、
移動教室には移動せず、教室でパンを食っていた。
そこを見回りにきていた大将に見つかってしまった訳だ。
しかも彼は運の悪いことに大将にカバンの中をまさぐられ、
タバコを見つけられてしまったというのだ。
彼には前科があったから、大将はここぞというばかりにタバコを探したに違いない。


結局彼はほどなくして自主退学することになる。
ムードメーカー的存在であった彼の突然の退学にはみんなが驚いた。
結局彼は普通科の公立高校にうまく編入することができた。
今は予定通りなら理容師の専門学校に通っているはずでる。


3月に入って、彼と親交の深かった10人前後のクラスメイトが集まり、
町田の繁華街の裏にある、相模川の支流の川辺に集まって、
彼の編入祝いと、進級祝い(僕は欠席日数の事項に引っかかり仮進級)を兼ねて、
酒とつまみとタバコを用意して夜の暗闇の中でくだらない話に興じた。


ちょっとギャルっ気のあったWという女の子が僕にタバコを勧めた。
だが、僕はタバコを断った。「吸わないの?」と彼女は言った。
「吸えないんだ。僕は気管支が弱い」と僕は言った。
その代わりに僕は酒をくれといった。君が持ってる氷結のレモンを飲ませてくれと。
彼女は回し飲みも間接キスも全く気にしない様子で僕に氷結を勧めた。
僕も気にせずにぐびぐび飲み干して空いた缶をそこらに投げ捨てた。
Nはそれをぐしゃっと踏み潰すと川の水面に向かって投げつけた。
程なくして空き缶は見えなくなった。


不安定な今という日常。そこに作った非日常というシェルター。
しかし、それは長くは日常という現実の攻撃をしのぐことはできない。
終電へと時計の針が進むと、みんな家路に帰っていった。


NはどうやらYとは既に別れていたらしく、帰りの電車の中で、
今日はWをお持ち帰りしたかったなどと冗談なのか本気だったのか言ってのけた。


そして僕は相変わらず石川梨華がどうしようもなく好きだった。
なんで石川梨華かも分からなかったが、今となっては、
なんとなくそれは非日常のシェルターだったような気がしている。
僕はどんどんとヲタ化していった。
やがて、どちらが日常でどちらが非日常という区分が無くなっていった。
学校に通うのも日常だったが、ヲタ活動をし、名前も知らない人と関わるのも日常。
春のツアーが始まり僕は仙台→名古屋と巡った。
名古屋では、やぐ兄達と全ての始まりとも言える運命的出会いを果たす。
(5月のSSA圭ちゃん卒で出会った人の中にも今まで続いてる人もいますねw)
そして4月が訪れ僕は高校2年になった。まだまだ高校生活は続く。




普通の人生で普通に手に入るものをいくつか拾い損ねてきたとも思う。
でも普通の人生では手に入らないいろんなモノを拾うことができた。
人生いつからいつまでが青春か…?学生時代のこと?30まで?結婚するまで?
答えはいろいろあると思う。
一つ分かること。まだまだ青春は終わらない。結末も分からない。
これから進む道を目の前に、たまには来た道を振り返ってみるのも一興。